【風景聴きレビュー】杏里 "Last Summer Wisper"
※下記の"story "は掲載曲を聴いて想像したものです。音から見える風景や物語を文にしています。是非、音楽を聴きながら読んで頂けると幸いです。
夏の歌姫 杏里
彼女の音楽には、夏と海がある。
爽やかなサウンドとどこまでも伸びていくような透き通った声
この季節になると聴きたくなるアーティストだ。
でもなぜ杏里=夏という方程式があるのか。
それは杏里の持っているセンスや歌声も大いに影響しているが、プロデューサーの力も大きい。
最も密接に携わってきたプロデューサーは和AORの職人 角松敏生
彼の風景を作り出す作曲は秀逸で、見事に杏里=夏のイメージを作り出したと考える。
その中でも、「夏の夜」を絶妙に表現しているこの曲は角松調のイントロがたまらなく気持ち良い。
まるで熱帯夜の帰り道、ステップを踏みながらあの人の元へ向かう貴方が見えます。
"story"
汗ばんだ肌、白いワンピース、赤い傘と麦わら帽子
お似合いの君は街灯に照らされる。
雨の音でステップを刻んで、貴方の元へ
見上げたら雲の狭間から今宵の月が見え始めた。
湿っぽい梅雨の終わりを告げるように美しい曲線を描いたそれは輝く。
いつも頭の何処かに貴方がいて、待ち遠しいあの笑顔を想像する。
だからこんな何気ない梅雨明けの瞬間も共有したいと思う。
きっと貴方は話すだろう。
「水たまりに反射した雨上がりの街が好きなんだ。」
私はそんな斜に構えた言葉に笑って、横顔を見つめる。
ふと遠くを見つめるような目に、寂しさを覚えた。
私は願っていた。
その先に、これからの未来があるんだって。
私は願っていた。
ずっと隣にいれるんだって。
あれからどれくらい経ったんだろう。
私は、またこの曲を聴いている。
いつも頭の何処かにいた彼は今も変わらない。
けれどあの夏の帰り道に踏んだステップは忘れた。
俯いて歩くその先に当然貴方はいなくて
もう上手くステップも踏めない。
悲しくなって見上げた夜空からは雨が降る。
目の前の雨雲にきっと三日月が隠れているはずだと信じてみるけれど
降りしきる雨足から今夜は明けそうにない。
なんでだろう。
傘をさしているはずなのに、足元に雨粒が落ちる。
夏の黄昏に似た恋は、徐々に消える光の様に